ソフトウェア開発の会計実務Q&A
].工事契約会計基準及び棚卸資産会計基準の適用及び内部統制対応に関して

Q48.仕掛品計上のソフトウェアに棚卸資産の評価に関する会計基準を適用した場合と工事契約に関する会計基準を適用した場合の評価基準の違いを教えてください。

:当社では、顧客から研究委託を受けて、ソフトウェアを開発しています(これを甲契約と呼びます)。甲契約は、研究成果はどのような結果が出るか不明ですが、何らかの出た結果を顧客に報告する義務を負っています。報酬金額は固定で、今回決算にあたり当初予定していた工数を大幅に上回る工数を追加で投入する必要があることが判明しました。その場合の評価及び会計処理を教えてください。

その他、顧客からの指示に基づいて完成品を作成するソフト開発を2種類、請負契約を締結して作業にとりかかっています。うち1本は過去に似た様な経験もあるので、請負契約額・原価の見積り・進捗管理も完全に出来ています(この契約を乙契約と呼びます)。もう1本は初めての仕様開発なので、請負契約は確定していますが、原価の見積や進捗管理が十分とは言えません(この契約を丙契約と呼びます)。このようなソフト開発が走っていたのですが、決算にあたって、両方の請負契約ともに追加原価が発生しその分を契約価額に上乗せすることができなく、損失が発生することが判明しました。この場合の評価及び会計処理を教えてください。

 

A48.将来の損失が見込まれる場合には、両基準でも評価損を計上することになりますが、棚卸資産会計基準では期末帳簿価額の修正を行い、工事契約会計基準では引当金を計上することとなっています。

(1)まず、請負契約で計上されている仕掛品をどの会計基準に適用するか判断します。

  以下のフローチャートをご覧ください。

1. ソフトウェア開発業務で考えられる棚卸資産

 

 

 

 

 

工事契約に関する会計基準

 

 

 

 

 

受注制作業務

 

依頼されたソフトウェアを仕様・作業内容を顧客の指示に基づいて完成させる契約になっているか?*1

 

Yes

 

(請負業務)

 

 

 

 

 

 

 

 

No

棚卸資産の評価に関する会計基準*2

人員派遣業務

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1.例えば、実質的にはサービスの提供の場合や研究受託の場合、顧客からの具体的な指図がなく仕様も任されている完成物の作成等が考えられます。

*2.全ての企業の棚卸資産に適用するが、他の会計基準での評価減がなされていればそれが優先します。・・この基準は在庫額の評価の方法のみを定めています。

 問での甲契約は、顧客から委託された成果を報告する義務がありますが、具体的に顧客からの仕様や指図は行われておりませんので、工事契約に関する会計基準には該当しないと判断します。ということは、消去法的に棚卸資産の評価に関する基準が該当することになります。

次に乙契約及び丙契約は、顧客からの指示に基づいて完成品を作成するソフト開発ということですので、両請負契約は工事契約に関する会計基準に該当するものと考えられます。

(2)次に工事契約に関する会計基準において、工事進行基準か工事完成基準かの判断が必要となります。以下のフローチャートをご覧ください。

2.工事契約基準での会計処理の区分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工事進行基準*2

 

 

以下の全てを満たしているか?

 

Yes

工事契約に関する会計基準

 

 @工事収益総額の確実性*1

 

 

 

 

 A工事原価総額の確実性*1

 

 

 

 

 

 B工事進捗度の確実性*1

 

No

工事完成基準

 

 

 

 

 

 

 

*1.成果の確実性とは、「投資のリスクから解放された時点」を指します(基準3740)。

*2.工期の長さは関係はありませんが、極短期間の場合には完成基準となります(基準5253,基準作成の際には3ヶ月が目安という議論があったそうです(経営財務2858号)。

質問での乙契約の工事全体を見ますと、上記@〜Bの確実性は高いようですので、進行基準の適用となります。丙契約の工事は@はクリアできるようですが、ABがクリアできそうもないので、完成基準の適用となります。

(3)最後に各基準での、期末評価損の検討です。将来の損失が見込まれた場合にその損失額を当期の費用として計上することは、棚卸資産会計基準・工事契約会計基準(進行基準であろうとも完成基準であろうとも)、同様です。その計算方法を例示として以下に記載します。

売上高80・発生原価100・見込原価及び販売費90

 

 

各会計基準による評価損計上方法

1.棚卸資産評価会計

 

90

 

 

 

 

 

 

 

 

見込原価+見込直接販売費

 

 

 

借方

 

貸方

 

 

100

 

 

 

棚卸資産評価損

100

仕掛品

100

 

 

80

 

棚卸資産損失引当金繰入

10

棚卸資産損失引当金

10

 

発生済原価

 

見込売上額

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正味売却価額

帳簿価額

=

損失額の場合

 

 

 

 

(80−90)

100

=

△110

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正味売却価額

見込売上額

見込原価+見込直接販売費

 

 

 

 

△10

80

90

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-1. 工事契約会計:工事完成基準

 

90

 

 

 

 

 

 

 

 

見込原価+見込直接販売費

 

 

 

借方

 

貸方

 

 

100

 

 

 

工事損失引当金繰入

110

工事損失引当金

110

 

 

80

 

 

 

 

 

 

発生済原価

 

見込売上額

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工事収益
総額

工事原価
総額

計上済損益

損失額の場合

 

 

80

(100+90)

0

110

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-2.工事契約会計:工事進行基準 

 

 

 

 

90

 

 

 

 

 

 

 

 

見込原価+見込直接販売費

 

 

 

借方

 

貸方

 

 

100

 

 

 

工事損失
引当金繰入

52

工事損失
引当金

52

 

 

80

 

 

 

 

 

 

発生済原価

 

見込売上額

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工事収益
総額

工事原価
総額

計上済
損益

損失額の場合

 

 

80

(100+90)

58 *1

52

 

 

*1 :100-42=58 ・42=80×100/100+90)

 

 

 

 

本事例では、原価+直接販売費の合計190が、売上合計80を110上回っているため、棚卸資産会計基準では、帳簿価額(発生原価)から控除しきれなかった金額を引当金として計上することになります(引当金の要件に該当すれば)。

工事完成基準でも同様な考え方ですが、工事契約会計基準では期末帳簿価額を修正せずに、全て引当金として計上します。同様に進行基準でも取込みますが、当期発生損失分は既に売上及び原価に進行基準で取込んでいますので、引当金として計上するのは将来の損失の分となります。

なお、各評価損の税務上の取扱いですが、

(1)   棚卸資産損失引当金及び工事損失引当金の損金算入は認められません。

(2)   棚卸資産会計での時価と税務上の時価は統一が図られましたので(法人税法基本通達5-2-11)、会社が税務上棚卸資産の低価法の届出を提出しているならば、棚卸資産から直接減額する棚卸資産評価損は、会計上原価法の枠内での収益性の低下に基づく評価損ですが、税務上損金に算入することが出来ます。

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