ソフトウェア開発の会計実務Q&A
].工事契約会計基準及び棚卸資産会計基準の適用及び内部統制対応に関して
Q49.受注請負作業で基本契約と注文書だけでの書類での会計処理はどうしたらよいでしょうか?
:当社の得意先A社はエンドユーザーである施主からの注文でプロジェクトを組んでおります。当社はA社から長年ソフトウェアの開発の委託を請けており、個々のプロジェクトでの個別契約は締結しておりません。今までA社は当社に開発工程でのかなりの部分を発注しており、過去納品・検収・請求・入金と大きなトラブルはありませんでした。また、A社はプロジェクトを立ち上げた際には、どこのフェーズは当社へ、別のフェーズは別の会社へと予め決めています。A社は当社及び外注他社の状況を把握しており、実際にはそのフェーズの発注が動いてしまいます。基本契約と発注書で行っているのは、そのような理由となっています。そのような関係ですので当社はプロジェクトの全体像は把握していますので、工数の予定は組める状態にはなっております。当社が保存しているA社との間には書類としては、基本契約書と注文書及び注文単位で納品する際の検収証しかありません。それらの書類は以下の様な概要となっています。
書類 |
内容 |
基本契約書 |
@ ソフトウェア開発に係る一式の委託。 A 発注はその都度、注文書による。 |
注文書 |
@ プロジェクト名とフェーズ名 A 納期と金額 B 仕様書は別途作成 |
A49.ご質問の場合、注文書を以って工事契約の単位として考えて差し支えないと思慮します。
:工事契約の単位契約単位をどのように考えるかで判断が決まります。具体的には以下の条件を追って判断する必要があると考えます。
(1)契約書が無くてもよいか?工事契約に係る認識の単位
工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位とされ、契約がその実質を反映していない場合には、これを反映するように契約書を分割したり或いは契約書を結合したりして工事契約の認識単位にする必要があるとされています(基準7)。
また、基準では、契約書が必要とは記載されていません。
このような観点からすれば、実質的に契約されていれば、契約書が無い事が、直接に工事契約会計基準の適用を妨げる理由とはならないと考えます。本問の場合には、基本契約だけでは不十分ですが、注文書に契約内容・納期・代金等が明記されていることから、その注文書が実質有効な契約と判断することは可能と考えます。
(2)工事契約の範囲は、注文書単位で受注を受ける単位でよいか?それとも将来受けることが見込めそうな注文書単位も含めて考えるべきか?
過去のA社との関係を見ますと、プロジェクト全体の流れを当社としても把握はしていますが、全体の進行状況によって、フェーズ毎に発注先が変わることがあり、当初予定していたフェーズが来ることも、また変更されることもあり、最初の注文だけで、全体の注文予定を入れた範囲を、一連の取引として工事契約の単位とすることには無理があります。注文書単位が工事契約認識の実質の単位として考えるべきと考えます。
(3)ソフトウェアの範囲とは?仕事の完成に対する対価とは?
次に考えなければならないのは、工事契約の認識単位が、工事契約基準で言うところの「仕事の完成に対する対価の支払われる請負工事(基準4)」に該当するかどうかです。顧客の指図に基づく事は、質問からも伺えます。しかし、フェーズを区切った注文単位が工事契約の認識の単位とした場合に、どこかのフェーズでプログラミング作業があるのは見込めますが、プログラミングがない仕様書の作成だけのフェーズや保守だけのフェーズなどの直接ソフトウェアの開発に関係のないフェーズが「完成に対する・・・請負契約」と言えるか?という問題です。
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針6では、ソフトウェアを「コンピュータソフトウェアを言い、その範囲は@コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラムAシステム仕様書、フローチャート等の関連文書」としています。また、「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い(実務対応報告第17号)」では、ソフトウェアの範囲を上記実務指針での範囲を再確認するとともに(実務上の取扱い1(1)前段)、受注制作ソフトウェアの範囲を「ソフトウェアとしての一定の機能を有する成果物」としています(同1(1)A)。
このような観点からすれば、プログラム作業をするフェーズは当然の事、プログラム作業が無くとも仕様書を作るだけのフェーズ・基本設計だけのフェーズなどもソフトウェアの範囲であり、一定の機能を有している成果物のため、単位として認識し得ると考えられます。なお、保守作業は、サービスの提供であり、ソフトウェアとしての一定の機能を有する成果物ではないため、本工事契約の会計基準の適用外であると考えます。
(4)注文書単位で工事進行基準を採用できるか?
注文書が仕様・納期・金額が明記されソフトウェアの完成品の受渡単位となるならば、工事契約の認識単位となります。そうであれば進行基準か完成基準となります。前述のとおり、工事進行基準の3つの要件・工事収益総額・工事原価総額・工事進捗度の確実性があれば工事進行基準を適用し、要件を満たさない場合には、工事完成基準を適用するとなっています(工事契約会計基準9)。これらの3つの要件の信頼性を具体的に見てみます。
進行基準採用の要件 |
具体的なポイント |
工事収益総額の確実性 |
@ 施工能力に問題が無い事。 A 環境に阻害する要因が無い事。 B 対価が明確に定められている事。 |
工事原価総額の確実性 |
@ 実行予算の策定・承認能力がある事。 A 実行予算の見直しが適宜できる事。 B 営業部門・施行部門・管理部門での管理体制が出来ている事。 |
工事進捗度の確実性 |
@ 工事原価が適切に管理されていれば期末日での進捗管理も出来ている筈。 A 適切な進捗度により算定されている事。 |
本問の場合、この具体的なポイントは不明ですが、問題なければ進行基準を採用することになると思います。