ソフトウェア開発の会計実務Q&A
].工事契約会計基準及び棚卸資産会計基準の適用及び内部統制対応に関して
Q54.進行基準採用条件のための原価見積と進捗管理はどのような内容が必要でしょうか?またこれが内部統制とどう絡むのでしょうか?
当社は、ソフトウェアを開発しており、原価としては当社従業員と外注先の人員がメインとなります。工事進行基準を採用できるような体制を整備しようと考えています。また、株式上場も考えておりますので、財務報告に係る内部統制も整備しようとも考えています。これらを総合して、原価見積と進捗管理に関してどのような部署でどのような帳票を作成し、どのようにこれを進めていくべきかお教えください。
A54.進捗管理に決まった方式はありませんが、契約の内容の変更が適時にプロジェクト実行予算の変更伝わるとともに財務会計にも適切に伝わるか?作業現場での変更が適時にプロジェクト実行予算及び財務会計に伝わる仕組みになっているか?及びそれが適切に承認されているか?承認された内容が適切に保管されているか?がポイントになるかと思われます。
:1.書類関係
以下、内容をイメージ出来る様な書類名で記載しますが、統合・分割しても構いません。また、契約書や注文書・注文請書等の見積・進捗管理とは関係のない書類は記載しません。
(1)開発部門での見積・進捗関係書類
書類名 |
内 容 |
見積関係 |
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工程表 |
開発を内容毎に区切って、それぞれの工数を求め、月次に展開していく。 |
人員配置表 |
開発を完成させる能力の前提で、社内での人員調整が必要であり、不足分は外注先に手配する。 |
積算書 |
各工程でどの程度の人員が必要か確かめた上で、社内使用の単価で計算する。 |
原価計算書 |
工程を月次に区分し、月次推移で社内で使用する単価で行う。 |
進捗関係 |
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工程管理表 :予実対比表 |
承認された工程表を進み具合が理解できる表とする。 |
人員配置表 |
先行き6ヶ月程度の配置が理解できる表 |
実行予算書 :予実対比表 |
原価を予算として捉えてそこで消化していく形となる。 |
タイムレポート :予実対比表 |
各人毎(含む外注)の作業時間を予定と実績で対比する。 |
(2)営業部門での進捗関係書類
書類名 |
内 容 |
見積 |
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見積及び実行予算書 |
サンプルを添付します。 |
プロジェクト積算書 |
開発部門での積算書の原価に対比させる形で顧客への見積額を記載する。 |
プロジェクト損益計算書及び資金繰リ表 |
同様に開発部門での原価に対比させる形で顧客への見積額を記載して、月次推移の損益計算書とする。 |
プロジェクト申請書 |
プロジェクトを社内で承認させるためのプロジェクト積算書・損益計算書の鏡となるもの |
進捗管理 |
特段の書類なし。 |
(3)財務会計での進捗管理書類
書類名 |
内容 |
見積 |
特段の書類なし。 |
進捗管理 |
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プロジェクト損益計算書及び資金繰り表の予算実績対比表 |
営業から引継いでの進捗度及び損益管理並びに資金の管理 |
進捗管理表 |
サンプルを添付します。 |
*その他、受注一覧表や開発消化一覧表等も受注残や未消化残を把握する為に必要となります。
2.手順と承認関係
(1)プロジェクトの責任者及び契約締結までの流れ
@受注に関しては営業が窓口となり、顧客との交渉及び開発部門での積算チームとの打ち合わせで、プロジェクトの概略(仕様・請負額・原価額・工期等)が決定されます。
A営業は先方との交渉や積算チームとの打ち合わせを重ねた上で、プロジェクトの概略が決定した段階で、プロジェクト申請を提出し、営業部門の責任者・開発部門の責任者・財務部門の責任者の承認を取って、契約書を先方と締結することになります。
* ここまでは、営業がプロジェクト責任者となるべきと考えています。
B施工部門では、営業から来た案件を、まず積算チームで工程化し人員・原価の積算の概要を計算します。
C詳細を詰めることにより、実行予算化していきます。
Dプロジェクト申請が開発・営業・財務の責任者の承認を得た段階で、積算チームから現場の施行チームに業務は移ります。
*ここから最終迄、現場施行部門がプロジェクト責任者となるべきと考えています。・・契約締結が作業の途中までかかる場合等、プロジェクト責任者が営業と現場施行部門と2人居ても構いません。
(2)進捗作業
@現場が中心となります。指定された工程を消化するのですが、工程毎にテスト・確認をします。そこでは該当施行チーム以外の人が確認するのが望ましいです。
A現場チームで、積算時の実行予算とズレが生じそれが月単位でのズレならば、これを訂正する報告をしなければなりません。内容によっては、営業部門や財務部門での承認が必要になります。
(3)会議体
@開発部門・営業部門・財務部門各部内での会議は省略します。
A3部門の会議は、工程の進捗度合いを確かめ、財務数値の確定及び予測に必要なので、最低でも月に1度は必要です。そこでは、
・ 新規案件の可能性や積算状況や進捗状況の報告がメインになりますが、
・ 積算見積の承認及び工程進捗度の変更の承認
・ 工事契約の変更・請負額の変更・原価の変更も承認事項に入れておく必要があります。・・・財務は、単に請負額・原価額・納期の変更の連絡があってもこの会議体での承認がなければ数字の変更はできない仕組みが必要です。
・ どの段階で変更の承認が必要かどうか(例えば1ヶ月以上の変更・1百万円以上の変更等)ルールを決めておく必要があります。
C一定額以上の案件や変更の場合には、取締役会による承認する等の決裁権限を作成しておく必要があります。
*このような書類や会議・承認体制が整備運用されていれば工事原価総額・工事進捗度の確実性に問題はないと考えています。しかし会社の規模によっては、開発部門の人員が営業を行ったり、財務部門の人員が積算する場合もあるでしょう。そのような場合にも、書類の検証・承認にそれらを理解できる人の牽制が働けば問題ないと考えています。
エクセルファイル見積予算進捗管理表をダウンロードのページより参考にしてください。