ソフトウェア開発の会計実務Q&A
 

U  ソフトウェア開発の原価計算:5〜22

Q5. 原価計算は何故行わなければならないのでしょうか?

:当社は、Q&A1で言う所の請負業務と自社利用ソフトウェアの開発を行っています。原価計算の必要性を感じながらも、期末に仕掛かっている仕事のみ概算での作業時間×単価で原価から在庫に振替えているだけで、月次で行っている訳ではありません。株主(代表の自分のみ)からも税務署からも特に注意されておりませんのでこのままでも良いでしょうか?

A5. 結論:株主からの意見はともかく税務署の指摘がないということはその仕掛品計上が凡そ合理的な金額だからだと推定します。しかしながら次に記載されたポイントを原価計算しなければならない・したほうがよい。の観点から見てみましょう。

説明:

(1)法人税法からの必要性

@平成12年度法人税改正(ソフトウェアの無形資産計上)

販売目的・自社利用目的のソフトウェアについて、平成12年度の法人税法改正において、無形資産として有形固定資産と同様に減価償却資産の対象として資産計上することになりました。

それまで、ソフトウェアの資産計上は、他から購入した分についてのみであり、自社開発にかかった人件費は期間費用として費用損金計上することができました。それがこの改正で自社開発のコストも資産計上することになったのです。これは従前が自社開発の人件費を製品毎(プロジェクト毎)に集計する必要はありませんでしたが、改正後は人件費を製品毎(プロジェクト毎)に集計する必要が生じたことを意味します。この場合、収益は関係ありません、原価だけがプロジェクト毎に集計する必要が生じたのです。

なお、この無形資産計上はソフトウェア開発業だけではありません。小売業・卸売業やその他業種でも、自社で使用する目的でソフトウェアを作成したら原価計算を行い無形資産計上する必要があります。

A正しい売上計上と対応する正しい売上原価

 これも事業の種類は問いませんが、特にソフトウェア開発会社に顕著に必要となります。小売業・卸売業の場合、仕入れた商品はそれが販売され売上に計上されるまでは、棚卸資産として資産に計上されます。製造業も同様に販売が実現されていない製品や加工途中の仕掛品は棚卸資産として資産計上されます。その後販売されたら売上に対応する原価として棚卸資産から売上原価に振り替えられます。正しい売上及び売上原価となる訳です。ソフトウェア社内人件費も同様です。特定の売上の為(売切り製品・請負製品)にかかった費用(含む外注費・人件費・その他諸費用)は製品=プロジェクト(ソフトウェアは目に見えませんが)に集計し原価として認識すべきであり、当該製品がまだ未販売ならば仕掛品として資産計上すべきものです。これもプロジェクト別損益というよりも個別原価計算の例となりますが、法的にプロジェクト別計算が要求されているのです。貴社の場合はソフトウェア開発業ですので、原価計算を行うべきです。それも期末に概算で行うべきでなく正しく行うべきです。

B試験研究費総額の税額控除制度

試験研究費総額の税額控除制度とは試験研究費額の15%程度を税額控除として納めるべき税額から控除(所得に対する税額の20%迄)できる制度です。試験研究でも漠然としたものでなく、開発テーマを持って進捗工数管理して原価を集計しなければなりません。試験研究の範囲については「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に係る試験研究のために要する費用で損金経理された原材料費・人件費・経費を言います。これは、工学的・自然科学的な基礎研究・応用研究及び開発工業化等を意味し、必ずしも新製品や新技術に限らず、現在製造中の技術改良中でも対象となると考えられ。事務効率等の人文社会科学系は入らない。と考えられています。貴社でもしこのような範囲での研究活動していたならばこれを利用しないのはもったいないです。

なお、同一の人物が製造活動と研究開発活動を行っている場合には、専ら研究開発業務に従事している分を立証するために明確に執務作業時間を区分する必要があります。詳しくはQ&A44をご参照下さい。

(2)管理会計からの必要性

管理会計が財務会計と比較する用語として存在していることは、逆に財務会計では管理が充分できないということを意味しています。

財務会計が会社法や税法等に従った制度会計なので、例えば直接原価計算ができないとか間接費の配賦をしなければならないとかで、会社の都合により会計制度を勝手に変えられない不便さがあります。管理会計は、法的制約を受けませんので、自分が管理し易いようにすればよいのです。従い管理会計は「こうあるべきである」というのは絶対ではありません。が、この製品(=プロジェクト)は儲かっているのだろうか?この業務(=プロジェクト)に投資してよいのであろうか?この仕事(=プロジェクト)はこの原価費用で成り立っているのだろうか?等々行っているプロジェクトの損益を把握しなければ経営が成り立ちません。ここで正しいプロジェクト損益を算定して経営判断に役立つデータを提出する必要性が出てきます。

(3)人事評価からの必要性

 最近では、年功序列制度から成果報酬制度へ移行する企業が多いようです。書店においてもそれぞれの制度の功罪についての書籍が目立ちます。消費者の価格知識の均一性や交通・情報距離の短縮は企業の競争を招き、コストの低減が求められるとともに組織再編に伴い人件費の見直しが必要になってきております。

 利益を生み出すのは従業員であり、多く利益を生み出す人も居れば、利益をなかなか生み出さない人も居ります。企業は利益を出さなければなりません。利益を生み出す人と出さない人に格差が生じるのも必然でもあります。その際に客観的で有効なデータとして利用できるのがプロジェクト損益です。

 当然に「成果主義=プロジェクト損益」で評価できない部門やクラスもあります。コストセンターである総務や経理・人事部門がそうであり、或いは営業などの直接部門でもプロジェクト責任者は成果主義を採用できますが、その下のクラスの従業員はプロジェクト損益では図ることが困難です。その場合は稼動状況とか別の数値によっての評価は必要になってくるでしょう。そうであっても、間接部門内の仕事をある程度細分化し、プロジェクトを採用し(例えばプロジェクト給与計算・プロジェクト庶務・プロジェクト月次決算等)、工数管理を行うべきでしょう。

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