ソフトウェア開発の会計実務Q&A
Ⅱ ソフトウェア開発の原価計算 Q5~Q22

Q21. 原価計算のフロー纏め(実際原価計算)

:ソフトウェアの開発業務を実際原価計算で行っている会社の原価計算の体系を例示で最初から最後まで教えてください。

A21.

A社では、作業員にタイムシートを記載させ、その作業時間でもって勘定科目ごとの発生額を按分するシステム(タイムレポート総合管理システム)により人件費をプロジェクト別に按分しています。

概要. タイムレポート総合管理システムで出力される人件費配賦表は主に会計ソフトの(プロジェクト〈PJ〉別)入力の為に使用し、フローとしては以下の通りとなっています。

(1)会計入力

A社はソフトウェア開発業務を行っているため、プロジェクト毎の個別原価計算を月次で行っています。

原価計算の対象となる費用勘定科目はQ&A8「科目別原価計算区分基準」のとおりで、可能な限りプロジェクトに直課するようにしています。

地代家賃は製造原価と販売管理に面積比により区分しています。

人件費のみを作業時間によってプロジェクト毎に配賦する原価計算の対象にしています。

A社は50人ほどの会社です。毎月25日に給与支払った際に全員分

a、借方:給与手当(プロジェクト名「その他」)×× 貸方:現金預金××

                        :預り金 ××

と仕訳をしています。A社が使用している市販の会計ソフトは部門とは別に、プロジェクトを持てるように設定はされています。なお、A社では貸借対照表項目を除いた損益項目についてのみプロジェクトの対象にしています。

 b、通勤代も同様に、全員分まとめて借方:通勤代、プロジェクト名は「その他」として計上します。

 c、その他、アルバイトの雑給・出向費・派遣費等も給与手当と同様にプロジェクトその他で計上します。

 d、賞与繰入額も月末で引当計上しておきます。

 e、社会保険料・労働保険料の法定福利費も給与手当と比例関係にあるので、月末に引当計上しておきます.

(2)プロジェクトの登録

導入時

     A社は自社で開発したソフトウェアを自社で利用する場合もあり、販売する場合もあるため、合理的に算定された原価を無形資産のソフトウェア及びその仮勘定に計上する必要があります。

     人員派遣や受託開発もあり、保守契約もあり、毎月原価として計上すべきプロジェクトもあります。

     そのため、A社では勘定体系を大きく以下のとおり区分しました。   

  a、製造原価・・・・・運用原価

             ・・・・・開発原価(無形資産へ計上)

   b、販売費及び一般管理費(以下販売管理費と呼びます)

     20人規模のA社では、人件費を、人員別に組織上の区分で大きく製造原価と販売管理費と分けるか考えましたが、同一の人物が開発活動も行えば、営業活動も行うため、組織上の区分ではなく、機能別の区分でまず大区分するよう考えました。これはタイムレポート総合管理システムで云う所の「業務区分」に該当します。その結果、直接業務・開発業務・間接業務と区分しました。前2者は製造原価項目とし、間接業務は販売管理費項目としました。従いまして、上記(1)⑤の会計仕訳は人員分全て販売管理費の給料手当・通勤代として処理しました。

     次に、プロジェクト名を即入れることもできましたが、A社では、中分類としてセグメント別に直接業務を地域別に区分しました。間接業務は組織上の区分で管理する目的で、製造部門の遊休時間や営業部門の全ての作業時間及び管理部門の全ての作業時間を集計するようにしました。これはタイムレポート総合管理システムで云う所の「作業区分」に該当します。間接作業の区分参考例を添付しました。

     最後にプロジェクト名を入れることになります。直接業務や開発業務では、クライアント名や契約名称を入れる場合が多く、売上と対比できる単位で設定しました。間接業務は当然に売上がありませんので、人員を管理し易い単位でのプロジェクトを設定しました。A社の参考例では顧客と同列に経理・総務・人事も1つのプロジェクトとして登録されています。これはタイムレポート総合管理システムで云う所の「プロジェクト区分」に該当します。

その都度

     導入時プロジェクト名を入れますが、顧客が増加すれば、プロジェクトを登録しなければなりません。その際、各人がプロジェクトを登録しては、混乱しますので、プロジェクト登録は経理担当者の一元管理にしました。そのため、プロジェクトの責任者が担当役員の承認を得て、経理担当者にプロジェクト登録申請を行います。(その都度)

     A社はソフトウェア開発会社であるため、単なる試験研究だけで、資産計上はできません。契約締結の可能性が高くなり、収益獲得が見込まれる段階になった場合に「プロジェクト開発申請書(Q&A33参照)」を提出します。

     人員派遣・受託業務は当然のこと、開発案件が完成し、販売もしくは役務提供が開始した場合には、それ以降の原価は直接の運用原価に計上しなければなりませんので、「プロジェクトサービス提供開始申請書(Q&A33参照)」を提出して、当該プロジェクトのステータスを開発→直接に変更(同一プロジェクトを直接に登録する)することになります。

注、A社はその後、収益獲得が見込まれる段階の前段階で研究費扱いでのプロジェクト管理をするようになりました。そのため、研究を開始する段階で「プロジェクト企画研究申請書(別紙参照)」を提出させ、間接業務→試験研究として登録し、一旦製造原価に計上し、その後他勘定振替で販売管理費に計上しています。

(3)各人毎・勘定科目毎の費用を入力(月次)

     給与明細及び会計ソフトからタイムレポート総合管理システムの管理者用メンテナンス・費用項目に各人別・勘定別に金額を入力します(既に入力してある月があれば、複写することは可能)。

     給与手当・賞与・派遣費・出向費・外注費・委託経費・雑費等は一人別に入力しますが、法定福利費等は、従業員全体にかかるため(個人毎に出来ない訳ではないが、分ける意義も小さいため)、全体という氏名で入力します。

     次に正しく入力されたか、検証します。

会計ソフトでは、販売管理費にプロジェクトその他で入力していますから、それとタイムレポート総合管理システムの管理者用費用メンテナンス・費用項目別合計と照合して一致を確かめます。その際に、消費税課税項目はタイムレポート総合管理システム側は税込みで入力しておきます。会計ソフト側が税抜きになっている場合には、消費税相当分が不一致になりますので、不一致が消費税相当か確かめることになります。

(4)(5)プロジェクト毎に作業時間を入力及び自動出力

その都度

     管理者は特に入力する項目はありません。一般の従業員が作業時間を入力するだけです。

     入力は毎日でもまとめて数日分を入れても構いませんが、やはり精度を向上させる為には、毎日終業時に入力するのが原則です。

     月次標準稼動時間を決めて、各日の標準作業時間を決定し、各日のプロジェクトの合計をそれに合わせる方法もあります。しかし、工数管理と真実な原価を集計するためには、実際の作業時間を入力させるのが、原則です。

月次

     各人には月末締日後3営業日までに、タイムレポート入力を完全に終了し、月次確定をするようにしています。

     月次確定すると、一般入力者は修正できません(管理者は修正することができます)。修正がある場合には書面で一般者から修正依頼を管理者に提出してもらいます。

     管理者は、タイムレポート総合管理システムの管理者用入力開始日メンテナンスで誰が、確定したか未済か、分りますので、未済者にアナウンスします。

     月次確定確認後、CSVファイルで会計仕訳をエクスポート・インポートします。

 6)勘定別プロジェクト別に入力

①この時点の会計ソフトでは、プロジェクトその他の販売管理費の各勘定に、集計されたままですので、これを、人件費配賦表に基づいて、各プロジェクトに振り替えます。

a、借方:<>給与手当(プロジェクト名「A」)×× 貸方:給料手当(プロジェクト名「その他」)××

     <>給与手当(プロジェクト名「B」)××

           ・

           ・

       給与手当(プロジェクト名「人事」)××

給与手当(プロジェクト名「経理」)××

b、通勤代・アルバイトの雑給・出向費・派遣費等も給与手当と同様に、プロジェクト「その他」から各プロジェクトに振り替えます。

*直接業務や開発業務は製造原価に計上します。間接業務は販売管理費に計上します。

②次に正しく入力されたか、検証します。

 a、会計ソフトのプロジェクト「その他」は、全て振り替えられた後ですので、残高は0であるべきです。

 b、差が生じている場合には、振り替え漏れ・二重計上・金額間違えが考えられますので、振替伝票と人件費配賦表との照合が必要です。

 c、人件費配賦表での数値は、四捨五入計算での数値ですので、端数の不一致が生じます(各人別に行っていますので、人数の約半数の差額が生じます。その差額は、A社においては、全てプロジェクト「総務」にもっていきます。

③製造原価に振り替えたプロジェクトの内、振り替えるべき項目の処理が必要です。

 a、直接業務のうち受託開発など、原価が発生しているが売上は翌月以降になる分については、貸借対照表の仕掛品勘定に計上します。逆に、売上計上月には、仕掛品から製造原価に振り戻し(期首仕掛品として)、売上原価に計上することになります。なお、A社では、仕掛品に計上すべきプロジェクトが多い場合ため、仕掛品勘定は補助科目を設定し、プロジェクト名を登録しています。

 b、開発業務は、貸借対照表・無形資産・ソフトウェア仮勘定に振り替えます。当該ソフトウェアが完成したら、本勘定であるソフトウェア勘定に振り替え、償却を開始します。なお、仕掛品と同様に、計上すべきプロジェクトが多い場合ため、ソフトウェア勘定(含む仮勘定)は補助科目を設定し、プロジェクト名を登録しています。

 c、もし、試験研究費を把握する場合(上記(2)プロジェクトの登録・注)には、一旦製造原価に計上され、販売管理費・試験研究費に振り替えます。

以上で、会計ソフトにプロジェクト別の原価が集計され、実際個別原価計算が終了しました。

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