ソフトウェア開発の会計実務Q&A
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ソフトウェア開発の原価計算 Q5〜Q22
Q22. 原価計算のフローの纏め(予定原価計算)
:ソフトウェアの開発業務を予定原価計算で行っている会社の原価計算の体系を例示で最初から最後まで教えてください。
A22.
B社では直接労務費・製造間接費・外注費を全て各人毎に標準単価を持たせて、その単価を各人のPJ別の作業時間に乗じてPJ別の原価計算を行うシステム(タイムレポート・イージー)を使用しています。
概要:タイムレポート・イージーで出力される原価計算表は主に会計ソフトの外において使用し、仕掛品等の内訳(プロジェクト別)の意味となります。フローとしては以下の通りとなっています。
@ B社はソフトウェア開発業務を行っているため、プロジェクト毎の個別原価計算を月次で行っています。
A 原価計算の対象となる原価勘定科目はQ&A8「科目別原価計算区分基準」及びQ&A10の複合勘定のとおりです。原価発生時(人件費・外注費・経費)の入力の際には、PJ別には入力しません。プロジェクトは全社共通で構いません。
B 地代家賃は製造原価と販売管理に面積比により区分しています。
C 人件費・間接費・外注費を作業時間によってプロジェクト毎に配賦する原価計算の対象にしています。
D B社は20人ほどの会社です。毎月25日に給与支払った際に全員分
a. 借方:給与手当×× 貸方:現金預金××:預り金 ××
と仕訳をしています。プロジェクトは全社共通で構いません。B社では製造原価項目についてのみプロジェクトの対象にしています。
b. 通勤代も同様に、全員分まとめて借方:通勤代、も計上します。
c. その他アルバイトの雑給・出向費・派遣費等も給与手当と同様に計上します。
d. 賞与繰入額も月末で引当計上しておきます。
e. 社会保険料・労働保険料の法定福利費も給与手当と比例関係にあるので、月末に引当計上しておきます。
導入時
@ B社は自社で開発したソフトウェアを自社で利用する場合もあり、販売する場合もあるため、合理的に算定された原価を無形資産のソフトウェア及びその仮勘定に計上する必要があります。
A 人員派遣や受託開発もあり、保守契約もあり、毎月原価として計上すべきプロジェクトもあります。
B そのため、B社では勘定体系を大きく以下のとおり区分しました。
a、製造原価・・・・・運用原価
・・・・・開発原価(無形資産へ計上)
b、販売費及び一般管理費(以下販売管理費と呼びます)
C 20人規模のB社では、人件費を、人員別に組織上の区分で大きく製造原価と販売管理費と分けるか考えましたが、同一の人物が開発活動も行えば、営業活動も行うため、組織上の区分ではなく、機能別の区分でまず大区分するよう考えました。これはタイムレポート・イージーで云う所の「業務区分」に該当します。その結果、直接業務・開発業務・間接業務と区分しました。前2者は製造原価項目とし、間接業務は販売管理費項目としました。一旦製造原価に計上し、その後販売管理項目は他勘定振替で販売費に振替えるようにしました。
D 次に、プロジェクト名を即入れることもできましたが、B社では、中分類としてセグメント別に直接業務を地域別に区分しました。間接業務は組織上の区分で管理する目的で、製造部門の遊休時間や営業部門の全ての作業時間及び管理部門の全ての作業時間を集計するようにしました。これはタイムレポート・イージーで云う所の「作業区分」に該当します。間接作業の区分参考例を添付しました。
E 最後にプロジェクト名を入れることになります。直接業務や開発業務では、クライアント名や契約名称を入れる場合が多く、売上と対比できる単位で設定しました。間接業務は当然に売上がありませんので、人員を管理し易い単位でのプロジェクトを設定しました。
その都度
@ 導入時プロジェクト名を入れますが、顧客が増加すれば、プロジェクトを登録しなければなりません。その際、各人がプロジェクトを登録しては、混乱しますので、プロジェクト登録は経理担当者の一元管理にしました。そのため、プロジェクトの責任者が担当役員の承認を得て、経理担当者にプロジェクト登録申請を行います。(その都度)
A B社はソフトウェア開発会社であるため、単なる試験研究だけで、資産計上はできません。契約締結の可能性が高くなり、収益獲得が見込まれる段階になった場合に「プロジェクト開発申請書(別紙参照)」を提出します。
B 人員派遣・受託業務は当然のこと、開発案件が完成し、販売もしくは役務提供が開始した場合には、それ以降の原価は直接の運用原価に計上しなければなりませんので、「プロジェクトサービス提供開始申請書(別紙参照)」を提出して、当該プロジェクトのステータスを開発→直接に変更(同一プロジェクトを直接に登録する)することになります。
注、B社はその後、収益獲得が見込まれる段階の前段階で研究費扱いでのプロジェクト管理をするようになりました。そのため、研究を開始する段階で「プロジェクト企画研究申請書(別紙参照)」を提出させ、間接業務→試験研究として登録し、一旦製造原価に計上し、その後他勘定振替で販売管理費に計上しています。
(3)各人毎の単価を入力(年次)
単価表に各人毎の直接労務費・間接費等の標準単価を入れます。
注、標準単価の設定方法は、Q&A20での方法で算定しました。
その都度
@管理者は特に入力する項目はありません。一般の従業員がエクセルタイムシートにPJ別に作業時間を入力するだけです。
@ 入力は毎日でもまとめて数日分を入れても構いませんが、やはり精度を向上させる為には、毎日終業時に入力するのが原則です。
A 月次標準稼動時間を決めて、各日の標準作業時間を決定し、各日のプロジェクトの合計をそれに合わせる方法もあります。しかし、工数管理と真実な原価を集計するためには、実際の作業時間を入力させるのが、原則です。
月次
@ 各人には月末締日後3営業日までに、タイムレポート入力を完全に終了し、月次確定をするようにしています。
A 管理者は、月次確定確認後タイムレポート・イージーにてタイムシートを集計し、その集計表と単価表とをマッチングさせ、原価計算表を出力します。
B A社では、間接業務分を含んだ単価で全て直接PJに集計する原価計算2によって行いますので、所謂間接費の直接PJへの配賦は終了しています。
(6)月次決算 プロジェクト別に入力
@ 原価計算表を出力した後、振り替えるべき項目の処理が必要です。
a. 直接業務のうち受託開発など、原価が発生しているが売上は翌月以降になる分については、貸借対照表の仕掛品勘定に計上します。逆に、売上計上月には、仕掛品から製造原価に振り戻し(期首仕掛品として)、売上原価に計上することになります。なお、A社では、仕掛品に計上すべきプロジェクトが多い場合ため、仕掛品勘定は補助科目を設定し、プロジェクト名を登録しています。
b. 開発業務は、貸借対照表・無形資産・ソフトウェア仮勘定に振り替えます。当該ソフトウェアが完成したら、本勘定であるソフトウェア勘定に振り替え、償却を開始します。なお、仕掛品と同様に、計上すべきプロジェクトが多い場合ため、ソフトウェア勘定(含む仮勘定)は補助科目を設定し、プロジェクト名を登録しています。
c. もし、試験研究費を把握する場合(上記(2)プロジェクトの登録・注)には、一旦製造原価に計上され、販売管理費・試験研究費に振り替えます。
A 標準単価で各PJに配賦していますので、実際原価との差額が生じますが、小規模会社なため、そのまま製品原価として売上原価にもっていっています。
a. 原価差額を調整しようとする場合には、中間と決算の年2回、若しくは年に1回決算期に調整する方法、月次で行う方法が考えられます。
b. 原価差額を中間と決算の年2回、若しくは年に1回決算期に調整する方法の場合には、月次ベースで一旦貸借対照表の棚卸資産に計上しなければなりません。その場合、原価差額を振替えた後、製造原価の当月完成品原価を0にした方が分かり易いです。そのためには、会計ソフト上、損益計算書に売上原価勘定を手動で作成し、完成品原価を製造原価報告書から自動的に作成するのではなく、手で仕掛品から振替える仕訳を入れます。
以上で、会計ソフトにプロジェクト別の原価が集計され、個別原価計算が終了しました。